ルーク11歳、ガイ15歳な過去捏造 「ああ、ガイ!よかった、やっと帰ってきたわ」 女中から頼まれた買出しに出かけて、無事頼まれたことを済まして、玄関に足を踏み入れたとたん、それはもう、まるで救世主を見つけたかのような表情で、俺に他の頼みごとをした女中とはまた違う女中に、縋られた。 女性恐怖症、なんてまた妙な厄介なものを抱えてる俺の体は、縋ってきた女中から必死に避けて、「あ、ごめんなさい」なんて申し訳なさそうに謝られてしまい、こちらこそ申し訳なくなりながら、でも、詫びるようにその髪を梳いてやることなど出来るわけもなく、申し訳なさに眉を情けなく八の字にしながら笑いかけるくらいしか出来なかった。 先ほどの一連のことに、落としてしまった頼まれていた品物を拾いながら、慌てていた理由と詳細を聞いた。 聞けば、どうやらルークが部屋からいなくなったらしい。 いなくなる直前、俺のことをひたすらに呼びつけていたらしい。 なるほど、それで「よかった」か。 話を聞くところによると、どうやら俺が買出しに行っている間中屋敷中を探し回ったらしいが、いなかったらしい。 ・・・世話ばっかりかかるお坊ちゃんだな、あの赤い子供は。 心の中では盛大に溜息。 表面では心配した表情で。 ああ、お坊ちゃん。 それ以上、それ以上、俺の期待を裏切らないでくれ。 それにしてもおかしいな。 一年前、誘拐されて帰ってきたルークは、何も覚えていない赤子も同然の子供だった。 それから、それまでの10年を取り戻すには短すぎる期間に、ルークの知識が元に戻るわけでもなく。 まあ、言ってしまえば、まだ、頭がいい、と言うわけでもない子供が一人隠れたところで、どうして屋敷中の大人が探し回っても見つからないというのか。 灯台下暗し、という言葉にならってみよう。 「ガイ・・・?」 そっちはルーク様の部屋よ? 俺の行動を不思議そうに見守る女中に、一つ「大丈夫」と微笑みを置いて、俺はその場を後にした。 多分、ルークにとってはそりゃあ、監獄同然であろう部屋の扉を開ける。 遠慮も何もあったもんじゃない。 大丈夫。だって、今は誰も見ていない。 「・・・・・・。」 うん。確かに、見えるところにはいないけど。 まあ、俺を探していたみたいだし、呼べば出てくるだろう。 なんて、考えて、 「ルーク?」 呼べば。 ガン・・・ と、鈍い音。 ・・・。 「ルーク?」 音のした位置を推測して、覗き込んでみれば。案の定、ベッドの下でうずくまる赤毛の坊ちゃん。 「お前、ずっとそこにいたのか」 少々呆れ気味に問いかけてみれば、痛みの所為で声を出せないのか、頭を手で押さえたままひたすらにこくこくと頷く赤毛。 頷くたびに、その赤い髪の毛がひらひらと揺れた。 「とりあえず、出ておいで」 優しく、手を差し伸べて促してやれば、痛みにそのあかるい碧に泪を浮かばせながら、もそもそとベッドの下から這い出てきた。 奥様が見たら失神するんだろうな・・・。 まあ、見せなければいい、と自ら考えたことを否定して、やっとベッドの下から這い出てきたルークを抱え上げて、先ほどルークが頭を打ったベッドに座らせてやる。 それどほぼ同時に、膝で立ってルークに視線を合わせる俺の胸元に、勢いよくルークが抱きついてきた。 まだ短い腕を、俺の胸部に一杯に一生懸命にまわして。 そして、俺の体温を確かめるように何度かぐりぐり、と顔を押し付けて、そして最後に、ひどく安心したような、嬉しい、という感情を表すように、なんともしまりのない笑顔で笑うんだ。 「ガイー。ガイーガイーガイー。ガイ。がいがいがい。」 ぐりぐり、ぐりぐり。 「ガイだぁ。」 俺の存在を確かめるように、なんどもその腕を動かして、抱きなおして。 どうしていいかわからなくなった俺は、ああ、そういえば、と先ほどルークが思い切り頭をベッドの下で打ったことを思い出し、ルークの腕に共に抱きかかえられてしまった左腕とは違い、自由なままの右腕を動かして、その赤毛の上から、ふわふわと、先ほど痛みをこらえるためにおさえていた箇所を撫でてやる。 そしたら、ルークは、それは、本当に、嬉しそうに。 顔を上に向けて、下を向いて、自然と微笑んでいた俺に目を合わせて、にっこりと、笑うんだ。 |
何故貴方は拒絶してはくれないのだ