smoke
最近、ぐんと値段の上がったそれを、ティキはとんとん、とたたいて一本取り出した。
左手の人差し指と中指でそれをはさんで、右手でシュッ、と火をともす。
ジジ、と先だけ赤くなったそれを少しの間咥えて、そして、口から離すとふー、と白い煙を吐く。
流れるような一連の動作に、ティキが今までそれを吸った数の多さを見たような気がした。
この間雑貨屋で買った、なぜか犬が餌を食べるときに使うような餌箱の形をした灰皿に、トントンと、これまた慣れた動作で灰を落とす。
そして、また口元にそれを持って行く、だけど、ティキがまたそれを咥える前に、動きが一度止まった。
意図がわからなくて、疑問をあらわに、ティキの顔を見たら、ティキもまた不思議そうに俺を見てた。
「なに?」
「いや、俺のセリフなんだけど…。タバコ吸うのそんなに見られると照れるんだけど」
「なんでさ」
「なんでって…えー…?じゃあ、ラビはラビが本読んでるときに一挙一動を俺が見てたら気にならない?」
「なるにきまってるさ」
「それと一緒なんだけど。」
苦笑しながら言って、ティキはまたタバコをくわえた。
ティキがタバコを吸うのを見るのが好き。
流れるような一連の動作がきれいだし、タバコを持つ手もかっこいい。
火をつける動作だって、俺の心に灯がともるように見ていてドキドキする。
ティキに吸われて、そしてゆっくりと吐かれる煙に嫉妬してしまいそうなほど、ティキのたばこを吸う姿はかっこいい、と思う。
でも、ティキ以外のタバコは嫌い。
煙が不愉快だし、匂いも不愉快。
ティキが吸うと、不愉快じゃ、ない。
同じものなのに不思議だと思う。
「ティキのタバコ好きなんさ。」
「へ?」
「他のやつが吸うタバコは不愉快でたまらないけど、ティキのタバコは好き。」
「そう。ありがとう。」
「ティキ、知ってるさ?」
「なにを?」
「何で、死んだらお線香をあげるか。」
「さあ…。」
「いろんな説の一つにすぎないらしいけど、死者は、線香の煙とか、良い香りを食べるらしいさ。」
「へえ。」
「ティキ、もしオレが先に死んだら、線香の煙より、香りより、ティキのタバコの煙と匂いが欲しいさ。
ティキがオレのお墓の前でタバコを吸ってくれるなら、オレは死んでもティキのタバコを吸う姿見られるし。
ティキのタバコはティキのにおいがする。
死んでも、一緒にいられる気がするさ。」
笑顔で言い切れば、ティキが咥えていたタバコの先から、灰がぽとりと落ちた。
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好きな人のタバコの煙は気にならないという話。