if





「もし、」





オレは、ベッドにうつ伏せて、

ティキは端に腰掛けてタバコを吸う。


そんな、俺たちの中では、すでに何度目かわからない光景の中、ティキがふと口にした。

オレは、体を少し起こして、ティキのほうを向いて、もう一度体を寝かす。



「もし、俺が今ここから窓を見てなかったら、あそこにいる男の顔を一生知らなかったわけだ。」



「・・・」



「あそこにいる人間達も、例えば、左からA,B,Cって名前をつけて、
もし、Aがあと数十秒ここに来るのが遅ければ、BともCともあってない。」


「・・・?」



「でも、会ってるんだ。あいつらは。その、数十秒の差で、この、大きな大きな世界の中の、膨大なな数の人間の中から、あいつらが。」



「・・・うん?」



「オレも、何分の一の確率なのかはわからないけど、例えばコインが表か裏か、なんていう確率よりもっと低い確率で、あいつらの顔を今、ここで認識したんだ。」



「・・・何が言いたいんさ?」




「だから、オレは今、ここでラビといることができる、その偶然に、感謝したい。」


その奇跡に、オレは感謝したい。



ティキは、小さく微笑んで、タバコの火を消しながら言った。




「そんなの・・・」



オレだって。



その言葉は、再びオレに覆いかぶさってきたティキの唇によって、音になる事は決してなかった。




===================================================================
今日、膨大な人間が行き交う駅のホームに立って、ふと思ったので。