冷たい雨





太陽ははもう大分前に、地平線の向こう側へその姿を隠した。

暗くなり、五メートルおきに位置する弱い弱い光を放つ街灯の光のみが、相手の姿を捉える唯一の手段だった。




そこには、神の武器を構えた、裏の歴史を記録するもの――ラビと、

きっちりと正装したノアの一族――ティキが対峙していた。





ラビは、少し位置のずれたぼろぼろになったマフラーをきちんと巻き直して、ティキをにらみつけた。

彼の息は荒い。


対峙するティキは、その両手で蝶と戯れながら、余裕を浮かべた表情でその視線に対抗した。



ぽつ、ぽつと冷たい、冷たい雨が降り出した。




不規則に地面へと落ちていた冷たい雫は、やがてその間隔を短くし、そして、絶えず落ちるようになった。




更に視界が悪くなったその状況で、先に動いたのはラビだった。

彼の神の武器を振りかざし、そのままティキへ殴りかかろうとしたが、ティキはさらりと身をかわし、ラビの背後へ回り込む。


「ラビ、バイバイ。」


言葉と同時に、彼は手のひらをラビの背中から、心臓めがけて突き出した。



とん・・・と、小さく音がした。



「……っ?」


自分の最期を予感していたラビは、その瞬間が来ないことに疑問を感じ、反射的に閉ざしていた瞼をゆっくりと持ち上げた。

恐る恐る振り返ると、そこには呆然とした・・・というか、呆気にとられた、というか、なんともいえない表情のティキ。



「・・・ティキ?」


「ラビ、やっぱり無理かも。殺せない」

「は?」


自らの命が助かったにもかかわらず、ラビはとても呆れた声を出した。

「ティキ、それはないさ。俺たち最初から敵って事はわかってたじゃんか。」

だから、それはダメ。

と、なぜかラビはティキに説教をする。


「でも、ラビ。オレ、お前に対して「触れたい」としか思えねえもん。」

「………」




今度こそ本当に呆れて、ラビは声も出なかった。

この殺し合いの状況下で?まだそんなことを言う?


「オレはお前を殺せない。お前も、俺を殺せないだろ?」

だって、さっきからお前の攻撃に殺気がねえもん。



「だからさ、ラビ。」

ティキは、ラビの肩を後ろから掴んでくるり、と反転し、向き直った。

そして、




”Would you elope with me?”



”―yes.”





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「私と駆け落ちしてくれませんか?」「・・・はい。」

きゃー!恥ずかしい!
とあるサイト様の素敵ティキラビを読んで、唐突に殺し合いネタが書きたくなって、でも死なせたくなくて、駆け落ちさせたくて一気に書いちゃいました。

FFやってるわりに、案外書きに来てるなあ。