ココロ・ハイポトニック






ピピピピピ

「ん、電話さ」

勉強の手を止めて、ラビはちら、と音の発信元を見て言った。
けたたましい電子音を響かせる、彼の髪の色によく似た携帯電話を手に取ると、ディスプレイには見たことの無い数字の羅列。
名前が表示されない、ということは、知らない人物からの電話か、知っている人物だが、電話番号は知らない、のどちらか。



ピピピピピピピピピ



いろいろと悩んでいる間にも、電子音は鳴り響いたまま。

「出ないんですか?」

明日の試験に備えて、一緒に勉強していたアレンにそう問われた。

「誰かわかんねぇの」

「そんなの、出て確認すればいいじゃないですか」

「俺、こういうとき必要以上に小心者なんさ。」

まぁいいか。

小さく呟き、彼は通話ボタンを押した。

「はいもしもし」

『あ、もしもし。ラビ? ティキです。おつかれさま』

「え、あ、おつかれさまです」

電話に出て、おそらく相手が喋ったであろうその瞬間に、ラビの顔が目に見えて変わった。
頬を赤く染め、目は鮮やかな色を含む。

アレンは、その表情だけで、電話の向こう側で話しているであろう人物に見当がついてしまった。

はぁ、とわざとらしく溜息をつく。

「え、急にどうしたんですか」

『今ラビ暇?』

「え、まあ暇といえば…暇ですけど。」

ちらり、と先程まで勉強していたノートを見て言う。

『ちょっとさ、コピーさせてほしい資料あんだけど…いいかな?』

「え、はいっ!」

『じゃあさ、えっと、今家?』

「あー、アレンの家です」

『…へー。あぁ、まぁいいや。じゃあそっから近い駅行くからさ、待っててくれる?着く10分前くらいに連絡入れるから。』

「はい!」

『あ、今持ってっかな?』

「えっと、日憲すよね?」

『いえっす。それ。じゃあまた後で』

「はいっ!」

ピ。

ラビは、相手が電話を切って無機質な電子音が聞こえてからたっぷり3秒間をおいてから電源ボタンを短く押した。

「…誰でしたか?」

アレンにとって、答えが既にわかり切っている質問だったのだが、ある意味社交辞令としてそう聞いた。

「ティキ先輩、だったさ」

「へぇ!よかったですね」

ナイス驚き演技。

アレンはこっそり自分を褒めたたえた。

「ぅあー、どーしよアレン緊張するさ」

「何でですか。普段通りでいいじゃないですか。」

「だって、二人っきりだぜ?あー。どーしよー。」

さっさと腹括れ。

さすがに苛々し始めたアレンは、笑顔を張り付けたまま心の中ではそう吐き捨て、もうラビを無視することに決めて勉強を再開した。


十数分後、ピリピリピリ、とラビの携帯が短く鳴った。


先ほどの音とは、少し違う。

どうやらメールの音らしい。

鳴るや否や、携帯を手に取り画面に目を走らせたラビは、すぐさま立ち上がった。



「行ってくるさ・・・!」



「行ってらっしゃい。」

アレンは勉強しているノートから、目を離さず、言葉だけを投げかける。

「アレン、なんか冷たくねぇ?」

「さあ、気のせいでしょう?さっさと行ったらどうですか?」

「・・・行って来るさ」

どこか、アレンの態度が腑に落ちないまま、ラビはとりあえず駅へと向かった。



アレンの家から数分かけ、ラビは待ち合わせの駅へと到着した。

まだ、ティキは到着していないらしい。

近くにあった、大きな柱に背を預けてふう、と息をつく。

あ〜、会ったら最初に何て言おう。
どんな顔をしたらいい?
資料をコピーしてる間の会話って・・・


ぐるぐるぐる、とラビはいろいろなことを考える。

「(あ〜、何悩んでんさ)」

はぁ、と悩む自分に溜息をついたそのとき、

「ごめんな、わざわざ」

「え、あ、先輩・・・!」

俯いたラビの頭上から、降ってきた声は、ラビの待ち人その人のものだった。

「あ、これ、言ってた資料です」

そう言って、ラビはかばんからプリントの束を取り出した。

「ああ、ありがとう。あ、じゃあちょっとそこのコンビニでコピーさせてもらうよ」

そう言って、すたすたとコンビニへ向かうティキの後ろ一メートルくらいをついていく

「(あー、やっぱ、好きなんかな。なんか、満たされる)」

自分が持ってきた資料がコピーされていく音を聞きながら、ラビはそんなことを思った。











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これ、半分私の実話です(ぇ
てか、ラビ乙女!
先輩ティキと後輩ラビで、ラビがティキに敬語、ってよくないですかね。
あ、だめですか。すみません。